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猫と高齢者問題、どこにでも見られる難しい問題ですが、
猫と高齢者はどのように窮地に陥るのでしょうか?
最近始まった二つの取組みはその解決の糸口になりそうです、
猫と高齢者にとって有益なその方策をどうぞご覧ください。
猫と高齢者問題の関係は絡んでほどけない紐のよう
猫は全国どこにでもいて、
どの地域でも野良猫問題を抱えています。
動物愛護法ができ、社会全体に動物愛護の精神が広がり、
殺処分数が減少しているとはいえ、
猫にはまだまだ厳しい世の中です。
そして、日本社会の重要な課題である高齢者問題。
人口減少が進む中、高齢者の人口は増加し、
2040年には65歳以上の人が全人口の約35%になると推計されています。
野良猫問題と高齢者問題がどう関係しているのかと
思われるかもしれませんが、
猫ボランティアの立場から見ると、
高齢者が猫の問題をこじらせているように見えるのです。
高齢者に特定するのは間違っていると言う人もいますが、
これまで関わってきた猫問題の多くは
高齢者がその原因を作っていたのです。
高齢者の困った行動がどのように猫を窮地に追い込んでしまうか
という具体例をご紹介します。
▲最初は自宅の庭に現れた猫を見て
可愛そうと思ってエサを与えた。
すると猫はそこに居着いて、子猫を産んだ。
子猫が可愛いのでそのままにしていたら
そのうちのメスが半年ほどで子猫を産み、
あっという間に10匹以上になった。
猫の増え方はねずみ算式、
3年で2千匹以上になるという試算があります。
多くの人は最初にエサをあげたとき、それに考えが及ばないようです。
猫の数が増えすぎて困り果てたあげく、
ボランティアに相談するというパターンが多いです。
しかも実際に行動を起こすのは本人ではなく、
同居の家族または離れて暮らす子ども。
高齢者本人はさほど重大なことという認識がなく、
自然に任せていれば良いという昔流の考え。
増えた猫たちが他所を徘徊し、
庭を荒らしたり糞尿やマーキングをしたりして
ご近所迷惑になっていることもお構いなし。
やがてご近所はやむなく保健所や役所に苦情を訴え、
保健所から指導が入ることに。
こうなると家族は動かざると得ないのですが、
本人はやはり何もしない。
高齢になると視野も思考も狭くなるので
他者への配慮ができなくなるのでしょうか。
それとも本当にどうすればよいかわからないのでしょうか。
すべての高齢者がそうだとは言いません。
中にはきちんと道理をわきまえ、立派に行動する人もいます。
でも私たちボランティアが遭遇する高齢者はなぜか
話の通じない人が少なくないのです。
猫可愛さのあまり頑固になっているのかもしれません。
一人暮らしの人が多いので寂しいのかもしれません。
でも、猫を助けたいというやさしさから始まったのに
本人の気持ちとは逆に猫はご近所から嫌われ排除すべき害獣とみなされる、
あまりにも残念な結果になってしまったことは
本人も意図したわけではなかったはずです。
何度も通って辛抱強く話し合いを続け、
やっと解決の糸口をつかむような状態です。
▲猫は基本屋内で飼っているという高齢者も最近は多く、
庭で増やした場合よりは対応しやすいです。
でも脱走対策はしてないので、猫たちは出入り自由、半野良状態。
寂しいからと飼い始めた猫がやがて子猫を産み、
ねずみ算式に増えていくのは上記と同様。
母猫を避妊手術したものの、4,5匹の子猫はそのまま。
すると大きくなった子猫が子猫を産み・・
年金暮らしの高齢者の場合、生活費は限られています。
何匹もの猫の不妊手術をする余裕はありません。
家中に猫が溢れて、数え切れなくなっても放置するしかない。
そして、高齢者本人は年とともに体が不自由になって
猫の世話が行き届かなくなる。
結果、家は荒れ放題になり、汚れも臭いも外より酷い。
初めて家の中に入ると一瞬呼吸が止まりそうです。
エサも十分に与えられないので、
猫たちの共食い、産まれた子猫を食べてしまうことが起きる。
病気や高齢のため弱った猫はゴミに埋もれて死んでいく。
なんとも悲惨な状態。
そんな多頭崩壊の現場は大抵高齢者の家なのです。
ある日高齢者が倒れて入院、または施設へ入所となれば、
猫たちは置き去り。
いっそう悲惨な状態に陥る猫たちですが、
行政はなかなか動いてくれません。
高齢者の多い地方ではそんな事例をしばしば耳にします。
そのようなわけで私たち猫ボランティアからすると
身勝手な高齢者が野良猫問題をこじらせていると
思ってしまうわけです。
でも高齢者の哀れな窮状を考えると
単純に責めることもできないのが実情。
何か良い方策はないものかと思い悩んでいました。
猫と高齢者問題の絡んだ紐をほどく糸口
猫の問題と高齢者問題、
絡みあってほどけない紐のように思っていました。
今後高齢者が増えるにつれ、
猫の問題も増えるであろうと危惧され
暗い気持ちになっていたのです。
しかし調べているうちに
全く手立てが無いわけではないとわかりました。
●ひとつは『アニマルセラピー』の取り組み
動物をなでたり膝に載せたりして触れ合うことで
心と身体を癒すというアニマルセラピー。
アニマルセラピーはリラックス効果やストレス解消だけでなく、
心身に良い影響を与えて病気の回復にも役立つことが
医学的に証明されています。
動物と触れ合っている時脳内に分泌されるオキシトシンという物質が、
自律神経を整えて脳の疲れを癒やし気分を安定させるそう。
オキシトシンは幸せホルモンとも言われますが、
心の喜びは身体に活力を与えるのです。
弱っていた病人や高齢者が意欲的になり、
協調性・コミュニケーションなど社会生活面の改善も見られるとのこと。
アニマルセラピーに用いられる動物は犬・猫・ウサギなど。
好みの動物であれば効果は大きいでしょう。
その場合穏やかな大人猫は高齢者に最適の動物。
猫を飼いたいという高齢者は実際多いのです。
しかし現在はどのボランティア団体も
ひとり暮らしの高齢者には譲渡しないと決めています。
飼い主である高齢者に万が一のことがあると
猫は置き去りになるか保健所で殺処分になるかですから。
でも最近は病院や介護施設などでアニマルセラピーを
取り入れるところが増えているようです。
自宅で猫を飼うことができなくても、
介護施設に入所している人もデイサービスに通う人も
猫と触れ合うことができるのです。
もっと多くの施設で積極的に取り入れてほしいと思います。
●もうひとつは『預かりボランティア制度』の利用
あるボランティア団体では最近
高齢者に預かりボランティアになってもらう取り組みを
始めたそうです。
自宅で猫と生活できる間は預かってもらい、
万一入院のため飼育できなくなったら猫を返す、という仕組み。
猫は高齢者向けの穏やかな高齢猫。
こまめに連絡を取り合うことが必要ですが、
高齢者の孤立を防ぎ健康増進に役立つでしょう。
これらの方策はボランティアと地域の介護施設や行政、
ケアマネ・ヘルパーの連携が必要です。
しっかり連携が取れて安定した仕組みになれば、
地域の見守り機能も高まり、
孤立した高齢者が多頭崩壊に進むことを防げるでしょう。
難しい問題なので達成は困難かもしれませんが、
少しづつ地道に進めていければと思います。